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心の障害をバリアフリー化するSEX革命の始まり。非感動ポルノ『パーフェクト・レボリューション』

蓮
写真は、ハス。花言葉「清らかな心」「神聖」「離れゆく愛」「雄弁」

(楽天WOMAN・09/23)

 乙武くんをマスメディアで見なくなって久しい。
ベストセラー本を連発し、自身の原作小説の映画化『だいじょうぶ3組』(13)に出演するなど超売れっ子だった頃は、「障害があるのに下ネタが得意なんて、すごい!」ともてはやされたが、2016年の不倫報道によって「障害者なのに、けしからん!」と世間の手のひら返しに遭ってしまった。
だが、不倫の是非は別にして、乙武くんのモテモテぶりに勇気づけられた少数派も存在した。障害者の性的自立を唱える熊篠慶彦氏がその1人。
障害者にも性欲はあるし、SEXしたい、めっちゃエロいこともしたい。障害者を特別視し、“感動ポルノ”の素材として扱う社会の偏見そのものをバリアフリー化してしまおう。
そんな野心的な映画が、熊篠氏が企画・原案、リリー・フランキー&清野菜名が主演した『パーフェクト・レボリューション』だ。

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 出生時に脳性麻痺を患い、14歳のときから車椅子生活を余儀なくされている熊篠慶彦氏。
2001年に出版された著書『たった5センチのハードル 誰も語らなかった身体障害者のセックス』(ワニブックス)によると、仲のいい理学療法士の先生に「女を知れば世界が広がるぞ」と勧められて、新宿のシティホテルにホテトル嬢を呼び、筆おろしを済ませている。
初体験というハードルを19歳のときにクリアしたことで、彼の世界観はいっきに広がった。「俺も普通にセックスできるじゃん」という喜びが、革命への狼煙となった。以後、熊篠氏はNPO法人「ノアール」を立ち上げ、バリアフリーを導入している風俗店の情報や障害者向けのマスターベーションのノウハウを伝える動画をネット上で公開するなど、障害者たちを性の悩みから解放する運動を進めている。


 熊篠氏にとってのヰタ・セクスアリス『たった5センチのハードル』には障害を持つ男性&女性の性事情がありありと描かれていたが、映画『パーフェクト・レボリューション』では、その後の熊篠氏の恋愛事情、SEXに関する切実な悩みが掘り下げられていく。

 本作を撮ったのは、『まだ、人間』(12)や『最後の命』(14)など他者とうまくコミュニケーションできない人々を描いてきた松本准平監督。

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「障害者の映画を作りたい」と熊篠氏から企画を打診され、熊篠氏が当時交際していた彼女も松本監督は紹介されていた。
その後、熊篠氏は彼女とは別れてしまったが、失恋の痛手を乗り越えるかのように、映画の企画が本格化していく。
アダルト産業の一大イベント「アダルトトレジャーエキスポ」にて、TENGAスタッフを通じて熊篠氏と懇意になっていたリリー・フランキーが主演することが決定。
エキセントリックなヒロインに『TOKYO TRIBE』(14)で度胸のよさを見せた清野菜名、頼れる介護士役に『接吻』(08)の演技派・小池栄子、と理想的なキャストがそろった。


 本作は熊篠氏の実体験をベースに、ポップで過激でファンシーなラブストーリーとして展開していく。
クマ(リリー・フランキー)は車椅子がないと生活できないが、かわいい女の子がいれば口説かずにはいられない性欲旺盛なエロ中年である。
障害者は怪物でもなければ、聖人君子でもないんです。
講演会でのクマの本音まじりの軽妙なトークにうなずく女の子がいた。
髪をピンク色に染めた風俗嬢のミツ(清野菜名)はクマのもとに走り寄り、「私、クマピーのことが大好き!」と熱烈にアピールする。


 エロいことは大好きなクマだが、40歳を過ぎ、重たい恋愛には慎重だった。
障害者が結婚し、家庭を持ち、子どもを育てるには、高いハードルが存在する。
性のバリアフリーを訴えているクマ自身が、障害者を取り巻く現実問題のシビアさを痛感していた。しかも、クマは中学生のときに大手術を受け、股間節をプロテクターなしでレントゲン撮影された過去から、生殖への不安も抱えていた。
だが、そんなクマの心のハードルを、天真爛漫なミツは軽々と飛び越え、心の琴線部分へとダイブしてくる。「あなたと私みたいな不完全なもの同士が幸せになれたら、それってすごいことだと思わない?」


 パリを舞台にした障害者コメディ『最強のふたり』(11)の主人公たちのように、クマとミツは電動車椅子に2人乗りして、公道を暴走する。
クラブでは車椅子をクルクルと回して、2人だけのオリジナルダンスを踊る。
銀杏BOYSの至高のラブソング「BABY BABY」がフロアに流れる。このとき、世界はクマとミツの2人だけのものだった。そして夜の公園で、2人は熱いキスを交わす。ミツがクマの上に股がる官能シーンが、甘く甘く描かれる。


 2人の過激な恋の行方を、クマの独身生活を長年支えてきた介護士の恵理(小池栄子)は表向きは笑顔で、でも内心は不安げに見守っていた。
恵理が予感したように、クマとミツのラブロマンスは簡単には成就しない。
クマは実家で行なわれた法事にミツを連れていくが、幼い頃からクマを見てきた親族の反応はまっぷたつに分かれる。
クマの面倒を看てくれる若い女性が現われたことを喜ぶ肯定派、障害者が結婚して子どもを作ることのリスクを危ぶむ否定派に割れ、法事の席は大荒れとなる。
また、それまでぶっ飛んだ言動でクマを驚かせてきたミツは、人格障害を抱えていることも発覚する。
ミツが自殺衝動や暴力衝動に駆られるのを、車椅子に乗ったクマは防ぐことができない。甘く盛り上がったラブロマンスほど、醒めた後の疲労感・虚無感はとてつもなく大きい。


 見た目は普通の女の子であるミツが実は内面に障害を抱えていたという設定は、映画ならではの脚色。
映画のラストもまた、現実とは異なるエピローグが用意されている。生まれも性別も、職業も能力も、お金も年齢も、本当の幸せには関係ない。
そのことを世界に向かって2人で証明したい。劇中のクマとミツは、パーフェクト・レボリューションという壮大な夢に向かって新しい一歩を踏み出していく。

 有名なSF作家ジュール・ヴェルヌは「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉を残したといわれている。ヴェルヌのこの言葉が正しければ、クマとミツが夢見るパーフェクト・レボリューションも決して不可能ではないはずだ。
(文=長野辰次)


『パーフェクト・レボリューション』
企画・原案/熊篠慶彦 原案協力/子宮委員長はる 監督・脚本/松本准平
出演/リリー・フランキー、清野菜名、小池栄子、岡山天音、丘みつ子、下村愛、増田俊樹、螢雪次朗、石川恋、榊英雄、余貴美子
配給/東北新社 PG12 9月29日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
(c)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会
http://perfect-revolution.jp
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