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増加する認知症患者の身体拘束 本当に“仕方がない”のか〈週刊朝日〉

asagaoアサガオ
写真は、アサガオ。花言葉「愛情」「固い絆」「はかない恋」

(Yahoo!ニュース「AERAdot.」・09/19)

 身体拘束を受ける患者の数が増え続けている。背景として考えられるのが、認知症と診断される人の増加。転倒などを避けるため、安全管理の側面もあるが、やむを得ない処置なのか。医療ジャーナリストの福原麻希が拘束ゼロの取り組みから、その答えを探った。


「どうして、こんなことになってるの?」

 30代の女性は病院へ祖母のお見舞いに行ったとき、ベッド上の姿を見て、驚いた。両手首がベッド柵に固定され、胴にも太いベルトが締めてあったからだ。ベッドの周囲は柵で囲われていた。

「取って。痛いし、動けないの」

 祖母は女性にそう訴えた。あわてて、女性が看護師を呼ぶと、こう言われた。

「『家に帰る』とベッド柵を乗り越えようとしたんです。転落して骨折しかねません。安全のための『抑制』です」

 祖母は認知症が進み、徘徊や暴力的な言動が目立つようになっていた。入院前、自宅で興奮して大声を出したり、入浴時には服を脱ぐのを嫌がり、娘である女性の母親にかみついたりしたこともあった。

 母親は症状の改善を期待して、精神科病院に入院させた。身体拘束に関しては、病院からあらかじめ同意書に署名を求められ、「必要なら」とサインしたという。

 女性の祖母のように、自らの意思で身体を動かせないように道具で抑える「身体拘束」の問題について、今、改めて関心が高まっている。拘束を受ける患者が増え続けているからだ。

 厚生労働省と国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所が毎年作成する「精神保健福祉資料」によると、全国の精神科病院および一般病院精神科病床の入院患者のうち、2003年に身体拘束を受けていた患者数は全国で5109人だったが、14年には1万682人と約2倍増となった。

 精神科病院や一般病院精神科病床で医師(精神保健指定医)が必要と認めた場合、身体拘束は違法ではない。精神保健福祉法に基づく「一時的で、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置(行動制限)」にあたる。


 拘束の方法は、手足や胴体にベルトを着けるほか、「車いす用腰ベルト」「ミトン」「つなぎ服」「四点柵」などがある。薬で、行動を落ち着かせたり、眠らせたりすることも。方法や身体拘束の範囲は病院によって異なり、「ミトンや車いすの腰ベルトは身体拘束でない」とする病院もあり、実際の患者数はもっと多いと思われる。

 拘束を受ける患者の数が増えている背景の一つとして、認知症と診断される患者の増加が考えられる。暴力的な言動など認知症の周辺症状への対応が追いついていないのだろう。

 精神科病院には、認知症患者が一定数入院している。14年の精神保健福祉資料では精神科病院の入院患者は約29万人で、うち認知症患者(アルツハイマー型および脳血管性の認知症)は約4万4千人(15.4%)に上る。10~13年の4年間でも、毎年同数程度の認知症患者が入院中で、入院患者の15%前後を占めている。

 ここに、参考となるデータがある。

 杏林大学の長谷川利夫教授が15年、全国11の精神科病院を対象に実施した調査では、隔離・身体拘束を受けていた患者689人のうち約1割(83人)が認知症患者で、拘束を受けた期間は平均2カ月(約64日)だった。

 高齢化社会を迎えた今、家族や自分が認知症になって入院した場合、「縛られる」可能性は十分にある。長谷川教授はこう訴える。

「身体拘束が増加の一途をたどっていることを、社会全体で考える必要があると思いませんか。人間の尊厳を傷つけ、命まで奪いかねないからです」

 身体拘束は身体への影響が大きい。長時間足を動かさず同じ姿勢でいると「突然死」の可能性がある。足の静脈に血のかたまりができ、一部が血流に乗って肺の血管に詰まる。いわゆるエコノミークラス症候群である。

 さらに、1980年代にいち早く身体拘束廃止に取り組んだ、ケアホーム西大井こうほうえん(東京都)施設長の田中とも江さんは、こう指摘する。


「高齢者の場合は、運動機能も心肺機能も低下し、全身が衰弱、感染症にかかりやすくなり、寝たきりになる。そうなると、より深刻な機能低下と衰弱をもたらす。その末路は『抑制死』と呼ばれています」

 もちろん、心理的ダメージも大きく、「トラウマとして残る」とも言われる。

 このような弊害から身体拘束廃止の動きが盛んになり、介護保険制度では「原則的に身体拘束は禁止」となった。2004年からは、身体拘束を受ける患者を減らすための委員会設置が、病院の診療報酬の要件に盛り込まれた。

 にもかかわらず、その数は増えている。前出の長谷川教授は「身体拘束実施の適切さを検証できるシステムが必要です」と提案する。

 一方、病院では安全のために仕方ない対応と考えている側面がある。

 例えば、手術後の意識障害によって暴力をふるったり、傷口を触ったりすることがある。処置によっては、患者がチューブを抜いてしまうと生命の危機につながることもある。こうしたケースでは、最小限の拘束が必要になる。

 だが、このほかにも看護師は「病院に預けているのだから、絶対、転ばせないで」と家族にきつく言われ、転倒すると病院から「どんな看護をしているの」と責められる。ベテランになるほど、患者の骨折や死で自分も悲しい思いをした人もいる。現実には、身体拘束に罪悪感を持ってはいるが、訴訟の恐れや責任感から対応するという。

 認知症患者のケアに限らず、病院の人手不足も拘束が増える要因の一つ。特に、精神科病院は1958年、急増する病床数に医療者の養成が追いつかず、厚生事務次官通知で医師の配置は一般病床の3分の1、看護師は3分の2と決まった。医療現場では時代に合わせて、この基準の廃止を切望する。ある看護師は言う。

「患者さんを抑制したくないが、つきっきりになるわけにもいかない。ほかの患者さんはだれがケアするのでしょう」

 こうした中でも、身体拘束をやめようと取り組む病院や介護施設もある。


 東京都立松沢病院(898床)は齋藤正彦院長着任後、本格的に「身体拘束ゼロ」に取り組む。齋藤院長はこう言う。

「『絶対ダメ』とは言っていません。でも、『人が人を縛るのは尋常ではない』と言い続けています」

 研修医には身体拘束を経験させる。「ガリバーのように手足を縛られ、『おしっこはおむつに』と言われ、屈辱だった」など患者のリアルな声は院内で共有している。

 12年の身体拘束率は15.3%だったが、現在は公立病院の役割として、対応の困難なケースを引き受けるにもかかわらず、4.9%まで減少した。認知症病棟(77床)は、現在ほぼゼロ。多くても日に1、2人という。

 しかも、身体拘束廃止に取り組むことでの骨折は増えていない。患者は院内を歩くが、医師が慎重に薬を処方し、他職種スタッフがしっかり見守ることで転倒リスクを回避している。

 齋藤院長は「家族のコミットメントの必要性」を強調する。

「家族もリスクを理解し、拘束をやめることについて、いろいろな側面から病院を支えてほしい」

 精神科以外の病床でも、認知症患者には苦労する。入院すると環境が変わるため、落ち着かなくなるからだ。対策として、フランスの介護哲学による「ユマニチュード」という技法に研究で取り組んだ病院もある。

 東京都健康長寿医療センター研究所の伊東美緒研究員はこう説明する。

「『ケアする人はどうあるべきか』を軸に、ケア前の3分間の関わりを大切にします。優しさを伝えてから、本題に入るようにします」

 この技法では、ケアをする人が「見る・話す・触れる」動作を同時に行うことで、相手に安心感を持ってもらう。例えば、認知症の人が着替えや入浴を嫌がるとき、まず相手の視界に入るよう、正面からゆっくり近づく。目を合わせたら、笑いかけてから話しかけ、自然に手に触れるようにする。相手の気持ちが穏やかになり、「いい人」と認識されたら「着替えましょうか」「お風呂入りましょうか」と話しかける。


「ユマニチュードを取り入れて、日中の身体拘束をできるだけ減らそうとしている病棟もあります。それでも、患者が点滴などを抜いてしまう場合は、医師の協力を得て、その治療が本当に必要かどうか再検討することもあります」

 最後に介護保険施設の取り組みを紹介しよう。先述のとおり、介護保険制度では、身体拘束は禁止されている。だが、拘束ゼロの施設は、厚労省の調査(2014年)では、特別養護老人ホーム、介護付き有料老人ホームで約7割、介護老人保健施設で約6割にとどまる。「入居者全員を拘束している」と答えた施設も97施設あった。

 脳血管研究所併設の老健アルボース(群馬県)は、01年から16年間、「身体拘束ゼロ」を継続する。現場のリーダーが徹底して例外をつくらず、教育研修で職員一人ひとりに「身体拘束はしない」という意識を確立させてきた。

 入所者の家族へのアンケート(回答者23人)では、約7割(16人)が「(過去に病院や他介護施設で)身体拘束を受けたことがあった」と回答。拘束時の様子は、「元気がなくなった」「寝ることが多くなった」「認知症症状が進んだ」「言葉遣いが荒くなった」。その様子を家族は「気になるが仕方ない」(15人)と感じていたという。

 だが、アルボース入所後は「表情が豊かになった」「症状が落ち着いた」「日中、起きていることが多かった」と変化がみられた。

 例えば、ある認知症の男性は、入所前の病院で手足の拘束を受けていた。誤嚥性肺炎の治療による痰の吸引時、男性は状況がつかめず、嫌がって暴力をふるっていた。

 アルボースでも痰の吸引はしている。だが、身体拘束をしないことで普段からスタッフとの信頼関係が構築されているうえ、吸引時は一人が説明しながら手を握っているので、男性は我慢できている。取材時、スタッフが前を通りかかると、無表情だった男性がニッコリほほ笑んだ。

 アルボースの認知症専門棟主任(介護福祉士)の木村聡さんは話す。

「身体拘束をしないことが目標ではありません。一人ひとりの、穏やかで、その方らしい表情を引き出すことをゴールにしています」

※週刊朝日 2017年9月22日号

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